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漫 画
《 すぐそこにあるディストピア 》ここから3冊

戦争は平和なり
自由は隷属なり
無知は力なり
時は1984年。強大な権力が支配する全体主義国家。表向きは従順な姿勢を装う市民、ウィンストン・スミスは、密かに真実と自由を夢見ていた。彼の静かな反乱はいかなる結末を迎えたのだろうか?
終わらない戦争、監視される市民、捏造される報道……。予見小説『1984』で描かれた社会は今こそ、リアルな怖さを放つ。
1949年の刊行以来、70年以上の長きにわたって読者を魅了し続ける『1984』。今回、人気アーティスト、フィド・ネスティがオーウェルの原文を忠実に引用しながら、全編に漂う不穏な空気を見事にビジュアル化したことで、新たな生命が吹き込まれた……。

すべての動物は平等なり
だが一部の動物は他の者よりさらに平等なり
農場で働く動物たちは人間を追放して、誰もが平等な社会を築こうとする。しかしその理念はいつの間にか権力を握った者たちに都合よく歪曲され、独裁的な社会に変貌してしまう。誰にも搾取されない〈平等な社会〉はなぜ独裁を許したのか。寓話というオブラートに包んで権力の腐敗を描いたオーウェルの傑作。
圧政を強いる権力に立ち向かうには何が必要なのか?「ソ連批判の書」という側面にとどまらない普遍的な命題を問う、風刺文学の傑作。いつまでも色あせない魅力はそこにある。

本を持っているだけで家を焼き尽くされてしまう世界。
「圧縮。要約。何もかもがたちまち結末を迎える」
「古典は2分で読める読書コラムの長さにまで切り詰められる」
「テレビは……何を考えるべきか、人に教えてくれる」
本を読むことも持つことも禁じられた社会。それは権力の命令ではなく、大衆自らの意志だった。まるで現代の効率化社会を予見していたように、70年前にそう記した作家の慧眼。共通項は「ものを考える」必要がないことだ。
そんな思考能力を奪われた社会は幸せなのか。オーウェルの『1984』と並ぶディストピア小説の傑作が、ブラッドベリ自らの監修で漫画化、新たなる息吹を与えられて蘇る!!
マーガレット・アトウッドの『侍女の物語』を読みながら、トランプ政権下にある今日のアメリカを思った。ディストピア小説とは、架空の世界を描いたものではなく、これから現れる世界を予見したもの…。
レイ・ブラッドベリの『華氏451度』が描く〈本=悪〉の世界。ナチスの焚書を思い浮かべる人は多いが、本の発禁はいつの時代にもあった。中世のキリスト教社会、江戸時代の日本、明治以後の大日本帝国、社会主義体制下の旧ソ連など、権威主義国家では政権に対する批判や都合の悪いものは常に排除されてきた。決して過去のことではない。実際、全米で5000もの学校がアトウッドの『侍女の物語』を閲覧禁止にしている。『はだしのゲン』を図書館から排除しようという動きがある日本はどうだろう。
ジョージ・オーウェルの『動物農場』はスターリン体制下の旧ソ連を描いたとされるが、これもまた今日のアメリカや日本に当てはめることのできる普遍的な内容を有している。『1984』はどうだろうか。強大な権力に支配される人間。価値の有無はすべて権力が判断する。自由意志など、言葉としてすら存在することができない、そこではLGBTQは認められないし、個人的な趣味、たとえば〈オタク〉や〈推し〉も許されない。抑圧の中に生きる人々は被害者なのか。しかしそうした全体主義を願ったのは大衆であった。思い起こせば、ナチスとヒトラーを求めたのはドイツ国民だった。アメリカ国民がトランプを支持した。かつて米英との戦争を望んだのは当時の日本国民だった。さて、今の日本国民はどうか…。
『動物農場』『1984』『華氏451度』を紹介するにあたり、迷ったことがある。どれも複数の訳書があるのだ。元が同じとはいえ、文体や言葉の選び方など、翻訳によって印象はけっこう変わる。逡巡している中で出会ったのがこの《漫画で読む…》だった。漫画なら読みやすいし、幅広い年齢層、本離れの若者も手に取ってくれるかもしれない。そんな期待感もあった。ただ、日本の漫画とはかなり違うのも確かである。私たちにとって馴染みの漫画とは〈絵+セリフ〉で構成され、読むところは吹き出しの中がほとんどで、あとは状況説明が少々…。絵という視覚情報が大きなウェイトを占めている。それに比べ、この三冊は読むところが多いのだ。『1984』は特にそうである。読まなければ理解できないから読む。それに耐えられるかどうか、ちょっと不安でもある。
ディストピア小説は予見の書と呼ばれたりするのだが、『侍女の物語』の原作者、アトウッドは言う。「隠れていたものが見えるようになっただけで、私は歴史上や現実社会に存在しなかったものは一つも書いたことがない」と。オーウェルもブラッドベリも同じに違いない。彼ら・彼女らは預言者ではなく批判的な視座を持つ観察者なのである。ふと思い浮かべたのがヴァイツゼッカー大統領の「過去に目を閉ざす者は、現在にも盲目となる」だった。
《 すぐそこにあるディストピア 》ここまで3冊
シリーズ11冊 + 外伝4冊 各880円
世の中には理不尽なことがたくさんあるけれど、戦争に駆り出されることはその際たるものだろうと思う。戦場の話しを聞くと、いつも思い出す。レマルクの『西部戦線異状なし』の一節、こちら側の主人公たちドイツ兵が第一次世界大戦の西部戦線でフランス兵と対峙する場面。「向こうさんだって普段は馬を飼ったり、畑を耕したり、パン屋だったりするわけだろ。俺たちと同じなわけよ。俺たちが向こうさんを殺す意味がわかんねえよ。あれだな。きっと戦争で誰かが儲けてるってわけだな。」このとおりの文面でなく意訳だけど、だいたいそんなことを言っていた。
ほんとうにそう思う。戦争が起こっていると知らされると、毎回このセリフを思い出す。それで何万、何十万人が死んでいく。理不尽の極み。ペリリューを読む。かれらはあっけなく死に行く。たとえ誰が得をしているかを知っていても、かれらには為すすべはない。どうしてそうなったかもわからない。恐ろしいことだ。
こちらは金の星社による、漫画家が描いた戦争作品のコンピレーション。中には「偏っている」と言う人もいるだろう。偏っていると思うかどうかは、その人の立ち位置に依存する。たとえば、右の方に立っている人には、真ん中にいる人が左の方にいるように見える。つまり、偏っているかどうかは、絶対的なものではなく、相対的な関係だからだ。
ここに収録された作品は、戦争や戦場を体験した、あるいは体験者から伝え聞いたことを描いたものであるがゆえ、リアルに満ちている。否定するには、幻想、いや妄想の世界に身を置くしかないだろう。それで良いかどうかは、自分自身がどう生きていくつもりなのかにかかっている。あなたが漫画の中の登場人物にならないことを願うばかりだ。
下に9冊紹介します。

ISBN 978-4-323-06401-7 3,200円
- 『ブラック・ジャック』から「やり残しの家」・・・手塚治虫
- おれは見た・・・中沢啓治
- 地獄・・・辰巳ヨシヒロ
- 九平とねえちゃん・・・赤塚不二夫
- 星は見ている・・・谷川一彦
- 黒バットの記録・・・貝塚ひろし

ISBN 978-4-323-06402-4 3,200円
- 屋根うらの絵本かき・・・ちばてつや
- 疎開っ子数え唄・・・巴里夫
- 白い雲は呼んでいる・・・永島慎二
- 荒鷲ゴンちゃん・・・わちさんぺい
- 少年マーチ・・・小沢さとる
- 山ゆかば・・・あすなひろし
- 八月の友人・・・石坂啓
- ストライク・・・弘兼憲史

ISBN 978-4-323-06403-1 3,200円
- 『ドラえもん』から「ぞうとおじさん」・・・藤子・F・不二雄
- 雨の中のさけび・・・樹村みのり
- すきっ腹のブルース・・・…手塚治虫
- 焼けあとの元気くん・・・北見けんいち
- 『cocoon』から「暗闇とペン先」・・・今日マチ子
- 愛と炎・東京大空襲・・・巴里夫(原作・さわ さかえ)
- 『三丁目の夕日』から「台風の夜」・・・西岸良平
- 少年たちのいた夏・・・北条司
- 寺島町奇譚』から「日和下駄」・・・滝田ゆう

ISBN 978-4-323-06404-8 3,200円
- 白い旗・・・水木しげる
- 大将軍 森へ行く・・・手塚治虫
- 死者の行進・・・楳図かずお
- 『寄席芸人伝』から「噺家戦記 柳亭円治」・・・古谷三敏(脚本協力・あべ善太)
- 戦場交響曲・・・松本零士
- 母について・・・比嘉慂
- 戦争 その恐怖の記録・・・白土三平
- 5人の軍隊・・・秋本治

ISBN 978-4-323-06405-5 3,200円
- くだんのはは・・・石ノ森章太郎(原作・小松左京)
- 落雷・・・星野之宣
- 地上・・・山上たつひこ
- 飛ぶ教室・・・ひらまつつとむ
- 百鬼夜行・・・諸星大二郎
- THE WORLD WAR 3 地球 THE END・・・松本零士
- 山の彼方の空紅く・・・手塚治虫
- ある日……・・・藤子・F・不二雄

ISBN 978-4-323-06406-2 2,000円

ISBN 978-4-323-06407-9 3,200円
- 赤とんぼの歌・・・中沢啓治
- 真理子・・・池田理代子
- 黙祷 初枝 ― その夏・8月9日 ― ・・・川崎のぼる
- 沖縄に散る ― ひめゆり部隊哀歌 ― ・・・水木しげる
- ああ沖縄健児隊・・・福本和也・原作 梅本さちお・画
- ワラビムヌガタイ ― 子どもが語る ― ・・・比嘉慂

ISBN 978-4-323-06408-6 3,200円
- フイチン再見!・・・村上もとか
- 家路 1945~2003・・・ちばてつや
- 幻の子どもたち・・・石坂啓
- 赤いリュックサック・・・巴里夫
- 『人間交差点』より「海峡」・・・矢島正雄・原作 弘兼憲史・画
- 『凍りの掌 シベリア抑留記』より「出征」・・・おざわゆき
- 『二世部隊物語 最前線』より「流血の丘」・・・望月三起也

ISBN 978-4-323-06409-3 3,200円
- 『ドラえもん』より「白ゆりのような女の子」・・・藤子・F・不二雄
- 「ゴッドファーザーの息子・・・手塚治虫
- 火垂るの墓・・・野坂昭如・原作 滝田ゆう・画
- この世界の片隅に・・・こうの史代
- ああ七島灘に眠る友よ! 疎開船「対馬丸」の悲劇・・・石野径一郎・原作 木内千鶴子・画
- 夕映えの丘に ― そこも戦場だった ― ・・・佐藤まさあき
- 『人間交差点』より「消えた国」・・・矢島正雄・原作 弘兼憲史・画
- 『味いちもんめ』より「若竹煮」・・・あべ善太・原作 倉田よしみ・画
- 『テツぽん』より「汽車ぽっぽ」・・・高橋遠州・原作 永松潔・画
- 『垣根の魔女』より「御身大事に…」・・・村野守美
日本漫画界の巨人と言えば、誰もが真っ先に思い浮かべる手塚治虫。1928年生まれの彼は、国民が国家権力に監視され、自由が奪われていく中で少年期を送る。学校教練の教官に漫画を描いているのを見つかっては殴られ、健民修錬所に入れられ、軍需工場へと勤労動員され、45年6月の大阪大空襲では九死に一生を得た。戦争の時代を実体験として知るだけに、彼の作品には、戦争の不条理と平和の尊さがそこかしこに挿入されている。この三冊は、それらのコンピレーション。手塚治虫が亡くなって34年、今日でも色褪せていないどころか、むしろ現代日本が作品に描かれた戦争に近づいているようで恐ろしい。

ISBN 978-4-396-11087-1 750円
- 紙の砦
- 新・聊斎志異 女郎蜘蛛
- 処刑は3時におわった
- 大将軍 森へ行く ・・・
- モンモン山が泣いているよ
- ZEPHYRUS(ゼフィルス)
- すきっ腹のブルース

ISBN 978-4-396-11087-1 750円
- カノン
- ジョーを訪ねた男
- ブラック・ジャック 魔王大尉
- ミッドナイト 足柄山の金太郎
- 0次元の丘
- ザ・クレーター 溶けた男
- I.L 南から来た男
- イエロー・ダスト
- 1985への出発

ISBN 978-4-396-11511-1 820円
- 悪魔の開幕
- ゴッドファーザーの息子
- 空気の底 猫の血
- ブラック・ジャック アナフィラキシー
- どついたれ 抜粋
- やまなし
- ブラック・ジャック やり残しの家
- 最後はきみだ!
- ザ・クレーター 墜落機
戦争を描いた漫画がある。かくいう私も、子どもの頃にずいぶんたくさんの戦争漫画を読んだ。
戦争漫画には、概ね、二種類に分けられるように思われる。ひとつは雄々しく、格好良く描かれ、気分を高揚させる描き方のもの。もうひとつは悲しく、惨めな気持ちにさせられるもの。どちらが正しい、どちらが読んで面白いかなどと野暮なことはいうまい。男の子が好むのは、たいていは前者だ。そして私もその一人だった。
しかし、リアルさを求めるのであれば、誰が描いたのかに留意した方が良い。つまり、作者が戦争というものを知っているか否かである。戦争のリアルを知らずに描かれたものは、そのストーリーがいかに面白く、描写がいかに優れていても、絵空事にすぎない。知っているつもりの戦争漫画が氾濫する現代、読むに値する作品はどれかを考えることは重要だと思う。戦争の危機を感ずるのであれば、なおさらであろう。

ISBN 978-4-7780-3256-2 1,500円
- 敗走記 ・・・水木しげる
- 死者の行進 ・・・楳図かずお
- 真空地帯 ・・・野間宏・作 滝田ゆう・画
- 寄席芸人伝〈噺家戦記 柳亭円治 ・・・古谷三敏
- イカロスの飛ぶ日 ・・・ 新谷かおる
- 砂の剣 ・・・比嘉慂
- 銀翼〈手紙~敬礼〉・・・立原あゆみ
- 『マルクウ』兵器始末 ・・・湊谷夢吉
- テロルの系譜〈一人だけの聖戦〉 ・・・かわぐちかいじ
- 泣き原 ・・・白戸三平
- 味いちもんめ〈若竹煮〉 ・・・あべ善太・作 倉田よしみ・画

ISBN 978-4-7780-3257-9 1,500円
- カノン・・・手塚治虫
- 石の戦場・・・巴里夫
- 火の瞳・・・早乙女勝元・作 政岡としや・画
- 少年たちのいた夏・・・北条司
- 黒い鳩の群れに・・・ 中沢啓治
- ヒロシマのおばちゃん・・・曽根富美子
- 家路 1945~2003・・・ちばてつや
- 回転・・・山上たつひこ
- 垣根の魔女・・・村野守美
シベリア抑留を体験した父親の話を漫画家のおざわゆきが描く。その制作過程をNHKがドラマ化、2019年に「お父さんと私の“シベリア抑留”~『凍りの掌』が描く戦争~」のタイトルで放送している。
ふつうの町に、ふつうに住む、ふつうの人たちの日常生活が、戦争によってどのように変わっていくか。話題になることが少ない名古屋大空襲が描かれているところが貴重である。『凍りの掌』と同様、こちらもNHKでテレビドラマ化され、2020年に「あとかたの街~12歳の少女が見た戦争~」のタイトルで放送された。

【夕凪の街】 原爆投下から13年が過ぎた広島の街。平野皆実は母との二人暮らし。弟の旭は戦時中に叔母夫婦の家に疎開し、そのまま養子になっていた。ある日、職場の同僚から告白されるが、原爆投下時の悲惨な光景がよみがえり、逃げ出してしまう。
【桜の国】 21世紀の東京に住む七波。一緒に暮らす定年退職した父親の名は旭。このところ、なにやら行動が怪しい。ある日、そっと後をつける。着いたところは、なんと広島。どうやら昔の知り合いを訪ね歩いているようだ。からみあった糸をほぐすように、だんだんと見えてくる自分の縁。
漫画とアニメの両方でブレイクした『この世界の片隅に』の作者、こうの史代が2004年に文化庁メディア芸術賞マンガ部門大賞、第9回手塚治虫文化賞新生賞を受賞した同名漫画。

軍港の町、広島県の呉に住む主人公。戦争を背景にした日常の暮らしと戦争直後の日本社会を静かに描いた作品である。2016年、本作を元にしたアニメ映画が公開されるや、ものすごい反響を呼び、1,133日連続上映という国内映画館における最長のロングラン記録となった。制作資金をクラウドファンディングにたよりながら。数々の賞を受賞。映像を見た後で読み直すと、一段と味わい深く感じるに違いない。
リンク先にてアニメ映画の紹介をしています。
https://bessho9.info/mov/senso.html#konosekai1
KADOKAWA 2020年~ 各巻1,000円
ノーベル文学賞作家スヴェトラーナ・アレクシエーヴィチによる同名の作品を、小梅けいとが漫画化。ウクライナ戦争が始まるや、この漫画は世代を超えたヒット作に。現在、第4巻まで刊行されている。


イランに住むマルジはブルース・リーが大好きな9歳の女の子。1978年のイスラム革命で、反政府主義者として投獄されていた叔父が釈放されたのは良いとして、厳しくなった風紀で生活が一変。さらには隣国イラクとの戦争が勃発。それでも自由な心を失わないマルジは反抗心旺盛。自由主義思想の母親タージさえも心配になり、ウィーン留学させることに…。
